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What a wonderful world...? アンタを最初に見たときのこと、今でも昨日のことのように覚えてる。 まだ空気が乾燥してどことなくひんやりとしていた頃、一台の自動販売機の前で行き倒れになっていたアンタを、私は一度見て見ぬふりをしたのだけれど、その日本人離れした容姿と身に纏っている不思議な雰囲気に気がついたら足を止めていた。 どうしたんですか。大丈夫ですか。って恐る恐る訊いたら、アンタは苦しそうな表情で「腹が減った」って、あれは今思い返してみてもなかなかのボケだったと思うわ。 それからよ。この人は自分一人じゃ炊事もできないんだと思い込むようになったのは。 まあ唯一、私の部屋の片づけっぷりはなかなかのものだったけれど。 ねえ、それなのに、どうしてなの。 どうして私の目の前で倒れたっきりアンタは目を覚ましてくれないの。 約束が違うじゃない。私が、私がしたのはそんな約束じゃない。 アンタが倒れてすぐに、アンタと似たような恰好をした似たような雰囲気の人間が数人私の前に現れた。 血だまりの中意識を取り戻した少年に驚き騒ぎ出した人々をこれっぽちも意に介さない風で、彼らはアンタの身体を渡せって、ただそれだけを言った。 あそこで大人しく従うべきだったのか、私は今でもときどき後悔する。 なにせ今アンタは、この一ヶ月間と同じくまだ私の部屋にいるんだもの。こんな狭いワンルームじゃ、アンタもすぐに嫌気がさすものね。分かってる。 でもお願い。あと一日でいいの。あと一日でいいから私の目の届くところにいてお願い。 異様なまでの肌の冷たさや腐臭なんてどうでもいい。彼らに縋りついてようやくもらったなけなしの猶予だもの、この間にアンタが目を覚ましてくれなきゃこっちはアンタの声をもう二度と聞けないままなのよ。願いごとだって、ねえ、一つ目で無限にしたじゃないまだ残っているのよ。 私、きっと寂しかっただけなんだと思うの。 起きても一人、寝るときも一人だったから、そこに誰かの姿が欲しかったのかもしれないの。 だからアンタとの奇妙な同居生活が始まったとき、正直少しはうんざりしたけれど、同じくらい救われたのよ。 アンタは私が自分の居場所を見失いそうになっていたところにちょうどタイミングよく現れてくれた。まるで、そう、天使様みたいに。 だからお願い。私の目の前から消えないで。私を残して行かないで。 なかったことに、なんてできるわけないでしょ。今さらアンタと出会った経緯をどうやって揉み消せって言うの。 アンタはきっと知らないのね。 あの願いごと以降、アンタが目を覚ますことのないクソみたいなこの世界で私がこんなにも声を枯らして咽び泣いていることも、服も枕もシーツも身体中からあふれ出る涙の所為で湿ってしまったことも、アンタはきっと、いや絶対、知りやしないんだから。 こんなお粗末な世界なんて、私はいらないのよ。 私が欲しいのは、万人が思い描くうちの共通する部分だけを引っこ抜いた世界なの。 CLOSE 2011/05/09 |